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東京高等裁判所 平成5年(行コ)116号 判決

控訴人

有限会社初谷鶴ケ島

右代表者代表取締役

初谷美佐夫

右訴訟代理人弁護士

福田哲夫

被控訴人

川越税務署長

川津貞夫

右指定代理人

松村玲子

外三名

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が控訴人に対し平成元年四月六日付けでした控訴人の酒類販売業免許申請を拒否する処分を取り消す。

三  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実〈省略〉

理由

一  請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。

二  酒税法第九条、第一〇条第一〇号の規定が職業選択の自由を保障した憲法第二二条第一項に違反するか否かについての当裁判所の判断は、次のように付加〈省略〉するほかは、原判決〈省略〉のとおりであるから、これを引用する。

1〈省略〉

2〈省略〉

3〈省略〉「なお、酒類販売業の免許制が右のように財政目的の見地から従前に引続き存置されているものであることに鑑みると、所轄税務署長が酒税法第一〇条第一〇号の規定等の運用に当たり、酒類の安売りを防止したり、既存の酒類販売業者の権益の保護を図ったりすることを目的とすることが許されないことは明らかである。」〈省略〉。

三  そこで、控訴人につき酒税法第一〇条第一〇号に該当する事由があるとした被控訴人の判断の適否について検討する。

1 酒税法第一〇条第一〇号は、酒類の販売免許の申請者が「破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」に、税務署長は、酒類販売業の免許を与えないことができる旨を定めているところ、この後段の「その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」という規定の意義につき、酒税法基本通達は、「事業経営のために必要な資金の欠乏、経済的信用の薄弱、製品又は販売設備の不十分、経営能力の貧困等、経営の物的、人的、資金的要素に相当の欠陥があって、事業の経営が確実とは認められない場合をいう。」としているが(乙第一号証)、同号の規定の文言及び立法趣旨、酒税法の他の規定の趣旨、酒販免許制度の目的等に鑑みると、基本通達の右見解は、右一〇号後段の規定の趣旨を具体化するものとして合理的なものということができる。もっとも、右第一〇号後段の規定が「薄弱であると認められる場合」としていること及び酒販免許制度が憲法二二条一項の規定と関わりがあることを考えると、税務署長は、具体的な申請に対しては、基本通達の右見解のうちの「事業の経営が確実とは認められない場合」という文言を、事業の経営が確実でないと認められる場合、すなわち、事業の経営が確実でないということが積極的に認定できる場合と理解して事案の処理に当たるべきものであって、右文言を盾に取って、申請者の殊更に不利益な点のみを取り上げ、事業の経営が確実であるということを認定することができないとして、免許することを制限する方向にこれを運用することは許されないといわなくてはならない。要するに、基本通達の右見解は、事業経営の物的、人的、資金的要素といった経営の基礎に相当の欠陥、つまり、通常よりも劣っている点があって、それにより、酒類販売業の正常な開業が不可能あるいは困難であると認められる場合や、開業することはできても、相当期間正常に事業を継続することが困難であると認められる場合に、免許を与えないことを是認するものであって、決して、経営の基礎が優秀ないしは優良といい得る場合に初めて、この要件に該当しないこととなるのでないことは今更いうまでもないことである。

しかしながら、右第一〇号後段の規定を、その前段の「破産者で復権を得ていない場合」と同程度ないしはこれに準ずる程度に経営の基礎に欠陥がある場合であるとまで限定して解釈しなければならないといえないことは、右規定の文言に照しても明らかである。

2 右第一〇号後段の規定の該当性については、原則として免許申請者につきこれを判断すべきであるが、免許申請者が法人である場合は、その代表者その他役員の資産、信用状況等をも考慮してこれを判断することができるのは当然である。

また、本件では、次に述べる事情から、控訴人の経営の基礎を判断するに当たり、はつがい及びハツガイの資産、信用及び経営状況等を考慮することができるものというべきである。

すなわち、〈省略〉、①控訴人代表者の初谷は、昭和三三年三月中学校卒業後、直ちに有限会社白田酒店に勤務し、そこで一〇年間従業員として酒類小売販売業の経験を積んだ後、昭和四三年四月東京都東村山市内に食料品店を開業し、同年六月立川税務署長から酒類販売業の免許を取得して酒類も取り扱うようになり、更に酒類小売販売業の経験を重ねたこと、②初谷は、その後次第に事業の範囲を拡大し、昭和五一年四月、同市多摩湖町四丁目七番三他二筆の土地を取得するとともに、その地上に建物を建築して、酒、米穀、塩、生鮮三品(食肉・魚・青果)、菓子、パン等の食料品一般を販売するようになり、そのころから酒類について安売り(製造業者指定の標準小売価格を下回り、かつ、採算の取れる価格で販売すること)を開始したこと、③初谷は、昭和五五年一〇月三〇日右土地の所在地を本店とするはつがいを設立してその代表取締役に就任し、右個人事業をそのまま引き継いだこと、④初谷は、昭和六二年その営業活動を更に拡大し、東京都東村山市に近い埼玉県の各市で酒類の安売り販売をしようと考え、昭和六二年二月一〇日ハツガイを、同年一二月二一日控訴人及び有限会社初谷深谷を、昭和六三年三月一日有限会社初谷狭山を設立し、それぞれの会社の名前で所轄税務署長に対し酒類販売業の免許申請をしたが、これに対する処分がいずれも遅れがちとなり、そのうちハツガイについては、被控訴人を被告として酒類販売業免許申請に対する不作為違法確認訴訟(浦和地裁昭和六二年(行ウ)第五号)を提起した後の昭和六二年九月一八日、酒類販売業の免許が付与されたものであること、⑤初谷が事業場毎に新会社を設立して各会社の名において所轄税務署長に対し酒類販売業の免許申請をした理由は、後記(4の(三)の(1))のとおり、はつがいが決算上相当に欠損金を出していたことから、はつがいの名においては免許を得ることが難しいと考えたこと、及び、はつがい一社が事業場毎に複数の免許を受けることは難しいのではないかと考えたことによるものであったこと、以上の事実が認められる。これらの事実によれば、控訴人は、有限会社として独立の法人格を有しているものの、その実体は、従前から酒類等の販売業をしているはつがい及び新たに酒類販売業の免許を受けたハツガイとともに初谷のいわば個人企業であって、この三社は、実質的には一体のものであるということができるから、控訴人の経営の基礎を判断するに当たり、はつがい及びハツガイを、考慮の対象として差し支えないものと考えられるのである。

3 ところで、行政処分の取消訴訟においては、一般に行政処分がされた時を基準として、その行政処分が違法であるか否かが判断されるべきであるとされているから、裁判所は、行政処分の違法性の有無を判断するに当たって、処分時に存した事情及び処分時に予測ないし認識することが可能な事情はこれを考慮することができるが、処分時に予測ないし認識が可能ではなかった処分後の事情はこれを考慮することができないというべきである。

4  以上を踏まえて、本件処分の適否について、被控訴人の主張(〈省略〉)に応じて具体的に検討することとする。

(一)  控訴人の資金が欠乏していたといえるか。

〈省略〉、①本件免許申請に当たり、提出された申請書の添付資料では、控訴人の資本金は五〇〇万円であり、うち四〇〇万円は初谷が、うち一〇〇万円は初谷の妻カズイがそれぞれ出資し、控訴人の当面の所要資金三九八万円はこの出資金とハツガイからの一〇〇万円を限度とする借入金の中から当てることとされていること、②控訴人は、昭和六二年一二月二一日設立され、同月二四日本件免許申請をしたものの、酒類販売を中心目的としているため、被控訴人から免許が付与されるまでの間は営業を開始することができず、しかも、昭和六三年九月ころまでは本件免許申請にかかる販売場は、常盤倉庫から菊池食品工業株式会社が賃借して使用していたことから、それまでは営業開始準備さえ進展していなかったこと、③昭和六三年二月二六日川越税務署長所属の統括国税調査官宮下剛は、右①の資金関係等の調査のため、埼玉県川越市的場一丁目一五番地八所在のハツガイの店舗で、初谷と面接し、同人に右出資の事実を証する資料の提出を求めたところ、初谷は右出資事実を直接証明する資料を提出することができなかったが、その代わりに出資金のうち四七九万五七〇〇円が現金として残存している旨が記載された現金出納簿の写しと同額の現金を提示したこと、④その際、初谷は、同調査官に対し、右現金は手元にあるものを集めたものであって、出資金残額は他の会社の営業資金に使用しているが、同年四月には出資金残額を預金するつもりでいる旨の説明をしたこと、⑤控訴人は、本件処分時まで右預金をしなかったが、被控訴人の側でも、次の同年四月二六日の調査の際には確認をしたものの、その後の調査(例えば、同年九月一二日調査)では、この点を特に問題とせず、平成元年四月六日本件処分がされたものであること、以上の事実が認められ、これらの事実からすると、初谷が提示した右現金が出資金そのものであるとはいい難く、控訴人に対し右出資金が払い込まれていることについて、被控訴人が疑問を抱いたとしても、もっともであるといえるのであるが、控訴人の代表者初谷は、昭和六三年二月の調査時に、とにかく出資金残額に当たる額の現金を提示しており、このことから、控訴人ないしその代表者初谷には、その程度の金額の資金を用意する資力はあると認めることができないではない(少なくとも、その程度の資金力がないとまでは断定し難い)のであり、また、後記((三)の(2))のハツガイの業績からすれば、同社が運転資金の相当部分を借入金に依存しているにしても、一〇〇万円程度の金員を控訴人に貸し付けることが困難であるとは考え難いのであって、被控訴人が右のとおり昭和六三年二月、四月に調査した結果によって、本件処分時において、控訴人につき、経営の基礎である資金的要素に相当の欠陥があると認定することは合理性を欠くものと考えざるを得ないのである。

(二)  控訴人の設備が不十分といえるか。

〈省略〉、①本件免許申請に係る販売場の店舗は、三楽食品が常盤倉庫から賃貸した建物を小売市場としたその一画を控訴人が三楽食品からテナント契約により転借したものであること、②三楽食品と常盤倉庫との建物賃貸借契約(以下「原契約」という。)では、転貸はテナント契約以外の方法によることは認めないこととされ、テナント契約は原契約が効力を有する期間に限られていたこと、③そこで、被控訴人は、控訴人が将来において継続的かつ安定的にこの店舗を使用できるかについて疑問を抱き、調査を実施したが、右の疑問が払拭されないとして、控訴人の設備は右の点において不十分と判断したこと、④しかしながら、原契約にも、転貸借契約にも一時使用の特約があるわけではなく、少なくとも、本件処分がされる以前に、原契約が解除その他の理由によって終了するおそれがあることを予測するに足りる資料はなかったこと、以上の事実が認められる。これらによれば、原契約にはもちろん転貸借契約にも、原則的には当時の借家法が適用されるものであり、たとえ、原契約の定める契約期間が経過したとしても直ちに右契約が終了するような性質の契約ではないと考えられることからすると、右の転貸借契約では、控訴人が将来において継続的かつ安定的にこの店舗を使用できるかについて、疑問が全くないとはいえないにしても、これによって、経営の基礎である物的要素に相当の欠陥があるとまで断ずるのはやはり当を得ないものというべきである。

被控訴人は、右建物賃貸借契約(原契約)は、平成二年七月四日かぎりで解約されていると主張するが、これが認められるとしても、右事実は本件処分時に予測、認識し得なかった本件処分後の事実であるから(前掲乙第八号証)、これを斟酌するのは相当ではない。のみならず、前掲乙第八号証によれば、右解約以後も、賃借人は異なるにしてもほぼ同じような形態で、常盤倉庫が右建物を賃貸することとしていることが認められるから、仮に控訴人に酒類販売業の免許が与えられることが予想される事態となれば、そこにテナント契約等により店舗を確保することができる可能性を否定できないというべきである。そうすると、いずれにせよ、被控訴人の右主張をもって、本件処分を維持しなければならない事由とすることはできない。

(三)  はつがい及びハツガイの経営状況等から控訴人の経営の基礎につき相当の欠陥があるといえるか。

(1) 〈省略〉、①はつがいは、その決算報告書によると、第六期事業年度(〈省略〉)に四五四万二五一〇円の欠損金を、第七期事業年度(〈省略〉)に一一四〇万四九三〇円の欠損金を、さらに、第八期事業年度(〈省略〉)に三八九万〇六一八円の欠損金をそれぞれ計上し、同事業年度末においては、繰越欠損金は一七九六万九一一四円に達していること、②しかも、はつがいは、第七、第八期事業年度においては固定資産について減価償却を行っておらず、正規の減価償却を行ったとすれば、第七期事業年度において四二九万九〇四八円が第八期事業年度において三六二万三七四〇円がそれぞれ欠損金に付け加えられるわけであり、この場合、第八期事業年度末における繰越欠損金は二五八九万一九〇二円となること、③しかしながら、第六期事業年度決算報告書をみると、前期繰越利益一八六万八九四四円が計上されており、第六ないし第八期事業年度において、右のとおり相当の欠損を出した原因は、従前から業績が伸びない状態であったのに加え、昭和六一年七月二五日から三日間店舗改装のための在庫一掃販売を行ったうえ、同年八月に店舗大改装工事を行ったため、その間の売上が減少し、店舗改装による除却損の計上がされ、また、昭和六三年五月から店舗の一部(生鮮部門)を株式会社斉忠に賃貸し、はつがいはそれ以降は酒類と米の販売のみを行うという合理化を行うため、更に在庫一掃販売を行ったことによるものであったこと、④はつがいは、昭和六〇年九月三〇日までに、東京都に納付すべき第五期事業年度(〈省略〉)に係る事業税一万六九二〇円及び都民税九四〇〇円を滞納し、第七期事業年度に係る都民税一万円も滞納し、源泉所得税等についても数度の納付遅延があったこと、以上の事実が認められる。これによれば、はつがいないしその代表者である初谷は、その納税意識に希薄な面があるが、滞納額はそれほど多額なものではなく、滞納期間もさほど長期ではないし(〈省略〉)、また、本件処分がされた平成元年四月六日当時においては、はつがいは、多額の欠損金を抱えていたということができるが、この欠損金を発生させたのは右のとおり店舗改装、経営の合理化に原因するいわば一時的なものであるともいい得るのであって、これが原因となって事業の継続が困難となるような事態は発生しておらず、また、その発生が予測される事情もあるとはいえず、かえって、はつがいは、右のとおり昭和六三年に経営の合理化を何とか成し遂げ、その態勢を建て直すに足りる経営の基礎を作り出すことができたものとみることができないわけではないのである。そうすると、右の納税意識や経営状況からは、はつがい自体の経営の基礎に相当の欠陥があったともいえないのであって、これをもって、控訴人の経営の基礎に相当の欠陥があると認める証左とすることは困難であるといわざるを得ない。

(2) 〈省略〉、ハツガイは、控訴人とほぼ同規模の会社であり、控訴人より一〇ケ月前に、酒類販売業の免許申請をしたものであるところ、昭和六二年九月に免許を取得して後直ちに酒類の販売業を開始し、第二期事業年度(〈省略〉)においては、売上高一億三六六八万六八四五円、当期利益金二四二万一七〇四円、第三期事業年度(〈省略〉)においては、売上高三億八〇〇九万二〇五七円、当期利益金六九六万七六七三円となっていたのであって、運転資金の相当部分を借入金に依存してはいたものの(なお、借入金の大部分は、はつがいが金融機関から借り受けたものを、はつがいから借り入れたものである。)、逐次業績を伸ばしていたものと認めるのが相当である。これによれば、ハツガイの右経営状況から、控訴人の経営の基礎に相当の欠陥があるといった判断ができないことは明らかである。

かえって、控訴人とほぼ同規模の会社であり、控訴人と同じ年に免許申請をしたハツガイが、免許取得後短期間に右のような業績をあげていたのであるから、もし、控訴人に対し免許が付与されたとすれば、控訴人においてもこれと同程度の業績をあげることができたものと推認することができ、しかも、本件処分時に、このことを予見することができたと考えられるから、被控訴人は、これを本件処分に当たり、控訴人に有利な事情として考慮すべきであったともいい得るのである。

(四)  初谷が控訴人代表者であることによって控訴人に相当の欠陥があるといえるか。

〈省略〉、初谷本人は、東京都東村山市多摩湖町四丁目七番三外二筆の土地(合計293.30平方メートル)及び同土地上の店舗建物を所有して、これをはつがいに賃貸し、また、同市多摩湖町二丁目三番二〇の土地(390.08平方メートル)及びその地上建物(居宅)を所有しており、本件処分当時、右四丁目の土地建物には金融機関との取引契約上の債務を担保するため極度額一億円の根抵当権が設定され、右二丁目の土地建物には五〇〇〇万円の住宅ローンのための抵当権が設定されていたことが認められ、〈省略〉、各不動産の平成元年度当時の時価は、右根抵当権の極度額又は右ローン額を相当程度上回っていたこと、他方、初谷は、昭和六三年四月二一日当時、東京都東村山市に納付すべき昭和六二年度固定資産税及び都市計画税第四期分四万一二〇〇円を滞納し、更に、東京都に納付すべき昭和六二年不動産取得税三件分合計八〇万六一一〇円等の滞納をしていたことが認められる。これらの事実に前記2に述べた初谷の職業歴をも合わせ考えると、初谷は、その納税意識に希薄な面があることは否定できないにしても、これだけで経済的な能力又は信用に欠けるとまではいえず、かえって、初谷は、右各不動産の所有等により、ある程度の資力ないし信用を有していたことは否定し難いところであり、また、酒類の小売販売については、相当の経験を有していたものということができるから(なお、初谷について、右の租税の滞納を除き、酒税法の趣旨目的に反する事跡があったことや、支払停止等信用喪失の事態等が生じたことを認めるに足りる証拠はない。)、初谷自身の経営能力、資産状況等は、優秀ないしは優良なものであるとはいい得ないにしても、劣悪であるとか、相当の欠陥があるとかとはいえず、したがって、それを根拠として、控訴人の経営の基礎である人的要素に相当の欠陥があるとすることはできない。

(五)  前田知男が控訴人の取締役であることによって控訴人に相当の欠陥があるといえるか。

〈省略〉、①控訴人の本件免許申請の申請書の添付資料には、前田知男は、控訴人の非常勤の取締役として、仕入れ、販売を担当することとされていること、②前田は、自ら酒類販売業を行ううえでは、〈省略〉、その資金は欠乏し、その経済的信用は薄弱で、経営能力は貧困であり、さらに、遵法精神に欠けるといわざるを得ないこと、③しかし、控訴人の経営は、初谷が行い、その経営の基礎は、専ら初谷の資産、経営能力、経済的信用に依存することとされていて、前田は、出資者ではなく、実際には、本件免許申請について控訴人ないし初谷を指導し、あるいは、被控訴人と応対することのみが役割とされていたものであって、右申請書の添付資料の記載にもかかわらず、控訴人の営業には関与しないものとされており、そのことは被控訴人も容易に認識し得たこと、以上の事実が認められる。これらによれば、前田は、控訴人の事業の経営に関しては影響力がほとんどないものということができるから、前田が控訴人の取締役であることによって控訴人の経営の基礎である人的要素に相当の欠陥があるとすることは相当とはいえない。

5 以上によると、被控訴人の主張する各事由は、控訴人の経営の基礎について、そこにある程度の問題点があることを示すものとしては首肯し得ないではないが、そこに相当な欠陥があって、事業の経営が確実でないと認められる場合に当たるものとするには充分とはいえないから、本件処分を支持するものとすることはできない。

四  それゆえ、控訴人の「本件処分に当たり、既存の酒類販売業者の権益の保護という機能をみだりに重視した裁量が行使されている」旨の主張(〈省略〉)に判断を加えるまでもなく、控訴人につき酒税法第一〇条第一〇号に該当する事由があるとしてされた本件処分は、これを適法とすることはできず、したがって、取消しを免れない。

五  よって、本訴請求は理由があるからこれを認容すべきところ、これと結論を異にする原判決は不当であるから、原判決を取り消したうえ本件処分を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民訴法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官大前和俊 裁判官伊藤茂夫)

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